いそかぜ おはなみ プロジェクト 
  

    cherry blossom viewing.

      
ISOKAZE

「だあああっっ!! 田所! そこ、でかい声で歌うなっ!!」

 仙石は今日何十回目かの叫び声を上げた。もういい加減のどがガラガラである。いつも怒鳴りなれているとはいえ、半舷分の海曹士がほとんど全員集まって乱痴気騒ぎを繰り広げているのである、並みの叫び方では聞こえないし、いつもなら先任伍長の命令には絶対服従の部下たちも、酔っ払って前後不覚に陥っている者もいれば、またそれを逆手にとって「酔ったフリ」で聞こえないフリをしている者まで出る始末。こうなると名指しで叫ぶしかない。

「ええー? なんですかー?」
 遥か遠くかなたから、田所の声が聞こえる。実際には10メーターも離れていないんだろうが、気分的には「向こうは彼岸」である。賽の河原のかわりにイカツイ野郎がごろごろと「漢波」状態。いわば漢特盛り。なんだかとってもヤな感じである。
「もうちょっと静かにしろー!!」
 声を限りに叫んだが、田所は耳の横に手を当てると、今までカラオケをがなっていたマイクに向かって、
「なんですかー!!?」
 と叫んだ。ピーン! とスピーカーがハウリングして、ただでさえデカイ田所の声を、音が割れてしまうくらい拡大してくれた。もはや質量を感じさせるほどに増幅された音波の直撃を食らった仙石は、よろよろと後じさると、「もういい…」と呟いてへなへなとその場に座り込んでしまった。

 周囲の喧騒にはもうついていけないし、いきたくもない。のどの痛みと、精神的疲れから、仙石がぜーぜーと肩で息をしていると、ふっと視界の片隅に影が落ちて、誰かがするりと傍に寄ってきた気配がする。

「大丈夫ですか?」
 他には聞こえないほどの小声で尋ねると、すっと冷たいお茶が入った紙コップを差し出してくれる。
「もう、ダメだ」
 喘ぎながら返事をして、紙コップを受け取る。中の茶を一息に呷り、うんざりした顔で影を見上げると、行が苦笑していた。
「あれ…おまえ、来てたの?」
 およそこういったバカ騒ぎは好まないであろう行がそこにいて、中腰で自分の顔を覗き込んでいるというのは、なかなかにシュールな光景である。意味もなくどぎまぎしてしまった仙石の胸中を見透かすかのように行はさらに苦笑を深めると、
「菊政が勝手に参加者の覧に名前、書き込んでたんです」
 その菊政のほうに顎をしゃくってみせた。

Novels
Back ● Next
Index