| いそかぜ おはなみ プロジェクト |
28 cherry blossom viewing. ISOKAZE |
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| さらにどうしようもないことに行の中では「森のくまさん」はばっちりと輪唱歌として記憶されていたらしい。すこぶる真顔で、いっぺんの感情も見えないその顔で、 「くまさんの くまさんの いうことにゃ いうことにゃ ♪」 もれなく同じ歌詞をリピートだ。「独り輪唱」…寒い、寒すぎる…。 だが、そのあまりの無表情っぷりに鬼気迫るものでも感じたのか、ギャラリーも、「乗らないといけない気がする。下手すると殺される、そんな気がする。根拠はないけど」状態に突入しつつあるようで、パラパラと手拍子が始まり、子供たちは一緒になって歌いだし、三番に突入する頃には花見会場に奇妙な一体感が生まれはじめていた。 おずおず、という感じで叩かれていた手拍子が頭上で叩かれるようになり、四番の頃には輪唱パートにもはや行の声が聞こえないくらいギャラリーの声がかぶさっている。 気がつけば仙石も、あいかわらず行の足元にコアラよろしくしがみついたままの菊政も、一升瓶を抱えたままの田所も、隣の区画に座っていた頭にネクタイを巻きつけた典型的サラリーマン集団も、遠足の幼稚園児たちも、この公園で初めて会い、そして二度と会うこともないであろう者たちがみな無邪気に声を張り上げていた。お世辞にもうまいとは言えないおっさんの胴間声に、OLのものらしきソプラノと音程が外れた子供の歌声が重なり合う、世代も性別も職業もなにもかも超えて、それも、みな笑顔で。 「らららららんらんらんらんらーん らららららんらんらんらんらん ♪」 歌が終わり、流行歌に比べれば格段に短い後奏の間も行は直立不動だった。だが、その周りにわっと人が集まる。なんだ? とそういうように怪訝そうな顔をした行に、 「先輩、うまいっスよ〜」 満面の笑みで菊政が言う。なにが…とむっとした顔で言いかけた行に仙石も駆け寄った。 |