いそかぜ おはなみ プロジェクト 
  

    cherry blossom viewing.

      
ISOKAZE

 喜色満面、にこにこ顔の菊政は、両手に分厚いカラオケの曲目リストを抱えて、ひょいひょいと器用に海士の波を縫って戻ってきた。
 リストを取りに海士連の中に入って行った菊政は、《いそかぜ》で一番の下っ端にあたるからか、やたら周りからやれ酒をつげだ、つまみがないだのと言われていて、行はその様子を見ながら、

(そのまま帰ってこなくていい…)

 と心の底から思っていたのだが、
「先任伍長の命令なんですよ〜」
 などと言ってニコニコしている菊政には誰も逆らえず(正確には「先任伍長」に、だ)、あっさりと戻ってきてしまった。

「はい、先輩、リストですよ〜」
 ふにゃら〜とした笑顔に手渡されたリストはずっしりと重く、その重さに行の心も重くなる。

 げんなりして、仙石の方に目をやると、興味津々といった目が見返してきた。

 さらにげんなり感が増した行は、その目を今度は菊政の方に向けたが、これまた好奇心に爛々とした目がこちらを見返してくるばかり。

 大体、なんでリストが何冊もあるんだ? 一冊あれば十分じゃないのか? とうんざりしながら抱えたリストを眺めていると、
「こっちが曲名順で、こっちがアーティスト順。これがジャンル別ですね」
 慣れた口調で菊政がリストを順に指差して説明していく。
「へえ、詳しいんだな」
 感心したように仙石が呟くと、菊政はちょっぴり胸を反らせて、
「へへへ…、実を言うと、何回説明しても覚えてくれない人がいるもんですからね」
 と悪戯めかして笑っている。
「…ははあ、兵長たちか?」
 仙石も口元を緩めてそう言うと、菊政は両手を上げて、
「それは秘密ですよ」
 酒で赤くなった顔でウィンクして見せた。――要は「その通りです」ということなのだろう。

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