いそかぜ おはなみ プロジェクト 
  

    cherry blossom viewing.

      
ISOKAZE

 …いや、そんなことはどうでもいい。今考えなければならないことはそんなことではない。

 行はどうやって逃げ出そうかと、そればかり考えていた。

 例えば、急に腹痛を訴えるとか、実は親の遺言で歌をうたっちゃいけないんだとか…。

 …どうも、「逃げる事」を禁忌として避けてきたからなのか、良い言い訳というものがさっぱり思いつかない。

 行は次第に、こんな事で悩んでいること自体にうんざりしてきて、とりあえずその場にどかっと座り込んで、試しに手渡された一番上のリストを開いてみた。

(…なんだこれは?)

 若手歌手のピンナップ写真の横に、曲名とナンバー。標準的な作りだが、そういった物に縁のない行には異次元の物体に見える。一体何曲登録されているんだ、この厚みは…? そんな数が必要なほど日本人は遊んでばかりいるのか? だいたい、その歌手の写真というのがみんな押し並べて薄ら寒い人工的な笑顔か、妙に退廃的で虚ろな表情をしているかのいずれかで、どちらにせよ頭の弱そうな仕上がりになっているのも気に入らない。表紙にかかったビニル製のカバーが醤油でベタベタしているのも気に入らない。とにかく、何もかもが気に入らない。

 つまるところ、およそ「楽しく歌を歌おう」などという気にはなれない。

 そう結論付けた行は、ますます「うんざり」に拍車がかかるのを感じながら絶望的な気持ちで顔を上げてみた。

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