いそかぜ おはなみ プロジェクト 
  

    cherry blossom viewing.

      
ISOKAZE

「えーっと…これは? 今ラジオとか有線とかでよくかかってる曲ですよ?」

 ぱらぱらとリストをめくり、ひょいと人差し指でその一つを指しながら、行の顔を覗き込む。

「…知らん」
「じゃあ、こっち。ちょっと前にすごく売れた曲」

 言うが早いか、出だしの何小節かを歌い出す。しかも結構うまい。

「…知らない」

「むむむ、先輩嘘ついてません?」
 横目で少し睨まれて、なんでおればかりがこんな目に…と、行は心の中で天を呪った。

「嘘なんかついてなんになる。本当に知らないんだ」
 心の中で今日何回目かの溜息をつきつつ行はそう言って、心持ち肩を落として見せた。

 こうなったら泣き落とししかない。

 明確に考えてのことではない。自覚もない。だが、なんとなくそんなことを言い、そんな動作をする自分が不愉快ではある。それはつまり、「泣き落とし」という行為が行の「決して逃げない」という誓いを反故にするものだからだろう。

 だがしかし、プライドをかけた「人生初の泣き落とし」はあっさり失敗に終わった。一世一代の行の泣き落としに対して、ほろ酔いの菊政は赤い頬をぷぅっと膨らめて、

「全然まったくさっぱり欠片もわかんないなんて事、ありえないんだもん!」

 などと言い出して全く取り合ってくれなかったのだ。

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