| 約束 ――崩壊まで―― |
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| 「おれがいなかったら、両親は結婚する事もなかったでしょうし、そうしたら離婚する事もなかったわけで、ばあちゃんもおれに気ぃ使って他の孫に会わないようにしてくれる、なんてこともなくて、みんな丸く収まったわけなんですよ」 できちゃった結婚て、やつですか、と菊政は笑った。膝でノートを支えるようにして機械室のスケッチを続けている行の後ろから、いつものように床にぺったりと座り込み、あっさりとそんなことを言う。行はそうか、と呟いて、傍らに放り出してある消しゴムに手を伸ばすとき、ほんの僅かにだが必要よりも体をひねり、その表情をチラリ、窺った。視界の隅ぎりぎりに掠めるように一瞬捉えた表情は、いつもと変わらずにこにこと子供のように笑っているようだった。 作り笑いじゃない。それはわかった。強がっているのでも。 ただ淡々と事実を語っているのであろうその口調は、別に自分に同情して欲しいからそんなことを言っているわけではないのだと言外に語っている。では、おれに何を求めているんだ? 行は意識の奥でちらりと自問したが、それがわかったところで自分に何をしてやれるでもないのだから、と一旦浮かび上がった思考をまた意識の底に沈みこめた。「可哀想な幼少期」というのなら多分自分も同じで、そんな自分に多分幸せではなかった菊政の思い出の空白を埋めてやれるような話ができようはずもない。 |