約束 ――崩壊まで―― 11

 如月先輩は…おれの事邪魔じゃないって言ってくれるけど…やっぱりホントは邪魔なのかな。
 もう一回寝返り。寝返りを打った弾みで毛布からはみ出した腕が目の前に見えた。三段ベッドの最下段ともなれば、天井からの明かりは届きにくい。色彩に乏しい薄暗闇で、その腕は青白く見えた。そろそろと、それを動かして自分の目の前に持ってくると、青白く見えた腕は本当は日に焼けていて、ちょっと前までは「いかにも現代っ子」という感じだった手のひらも、すっかり皮膚の厚い無骨な男の手になっていた。菊政はそんな自分の手を見て、あいかわらず晴れはしない気持ちのまま、微かに苦笑した。
 なんのかんの言っても、馴染んじゃうもんだな。


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 菊政は高校を卒業してすぐに自衛隊に「就職」した。彼にとっては自衛隊というのは何も特別なものではなく、ただ単に一企業に過ぎなかったのだ。
 だが周囲にはそんな風に思う人間はあまりおらず、

「は? 自衛隊?」
 高校三年の晩夏、菊政が仲の良い友人の一人に希望進路を尋ねられたとき、素直にそう答えたら、友人たちは揃って素っ頓狂な声を上げて目をぱちくりさせていた。
「おかしい?」
菊政が至って真面目な表情でそう聞き返すと、あんぐりと口をあけたまま友人たちはコクコクと頷いた。
 いつもニコニコとしていて人当たりがよく、お人好し。頭も体も、精々頑張っても中の上という菊政が突然の自衛隊入隊宣言――。違和感を通り越してまるで信憑性がない。なんだよ、冗談だろ? 友人の一人がやっとの事でそう搾り出して引きつった愛想笑いを菊政にむけたが、当の菊政は涼しい顔で、いや、本気だよ? と小首を傾げて見せた。そしてもう一度、おかしい? と繰り返すに至っては、友人たち全員はポカンと口を開けたまま呆然としていた。



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