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約束 ――崩壊まで―― 12 |
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| 過疎が囁かれて久しいちっぽけな町に財政的余裕などあろう筈もなく、築何十年を数える古びた校舎の教室は未だに水拭きで掃除する板張りで、日に焼けたり、椅子の足でこすれたりで、そこかしこが変色してる。がたつく机の上から弁当箱を片付けて立ち上がった菊政の背後には、そこだけ妙に新しいアルミサッシの窓があり、貧しい公立学校の教室にクーラーなどあろう筈もないから、その窓は一日中全開に開けられたままになっていた。校庭側にしつらえられた窓は、風が吹くと砂が舞い込むというので女子生徒には不評だったが、誰も食事の間だけでも閉めようなどとは言い出さなかった。 その、安っぽい白いレースのカーテンのかかった窓の外では、夏休みの間じゅう真夏の熱気と太陽にさらされた広葉樹の濃い緑が、まるで今が盛りであることを知っているかのような顔をして、幾分かはしのぎやすくなり始めた風に揺れていた。微かに聞こえる葉擦れのその向こうからは、昼食を早々と終わらせてサッカーやバスケットに熱中している同輩や後輩たちの歓声も聞こえてくる。彼らの声もまた、どこかで「今が盛り」だとでも思っているかのように、幾分性急に、そして幾分、必死であるかのように聞こえた。まるで「アリとキリギリス」のキリギリスが本当は秋がやってくることを知りながら、それが来ることなどをわざと考えもせず、ただただ享楽的に歌っているようだった。 なんで・・・としばらくたって、友人の一人が呻くように呟くと、菊政は真面目くさった顔で、 「おれ、ばあちゃんに一戸建て、買ってやるって約束してるんだよね」 そう言って、弁当箱をしまうついでに鞄の中から取り出した自衛隊の入隊パンフレットを机の上に広げた。 「ほら、高卒でこんだけ貰えるの。おれ、勉強嫌いだし、どっかいい会社に入れるようなコネとかもないし、ばあちゃん齢だし。高卒じゃあ一戸建て買える位まで金貯めるのに何年かかるかわかったもんじゃないだろ? でもさ、自衛隊入れば、無駄遣いしなきゃ2、3年でウン百万貯まるんだって」 真剣な表情でそう言うと、友人たちは揃って吹き出した。おまえねえ、そんな約束、本気にしてないよ、ばあちゃんはさ。口々にそう言っては笑う友人たちを尻目に、菊政はゆっくりと首を横に振った。 |