約束 ――崩壊まで―― 16

 だが、そんな折、母の妊娠が発覚した。遊びのつもりだったのが、まずいことになった。しかし、いずれにせよ自分のあとを継ぐものが必要になる父は、母との結婚を決意した。どうせ親が決めた相手と結婚することになっていたのだ、誰と結婚しようがさしたる違いなどない、そう思ったのかもしれない。実際、政略結婚のための「ふさわしい相手」はまだ決定されておらず、それによって変化するであろう経営戦略もまだない状態だったから、実家も会社経営陣も嘆息一つくらいは寄越したのかもしれないが、強い反対はなかったようだ。

 かくて、菊政の両親は結婚した。父は二十五歳、母は二十歳になったばかりだった。

 父方の払いで盛大に行われた披露宴にはどうにか出席した祖父は、しかしその後は母からの連絡を一切拒み続けたという。「二十五歳という若さでは、いくらなんでも重役扱いで戻ってくるには早すぎる。もう五年もしたら戻ってくればいい」と父方の実家は言っている――祖父とは絶縁状態であった母は、こっそりと連絡を取り続けていた祖母にそう言ったそうだ。

 しかし、父の実家である会社の経営が傾きはじめれば、そんなことは言って居られなくなった。経営再建のため、優秀なアドバイザーをつけたおかげでどうにか倒産は免れたものの、責任を問われた重役クラスはほとんど辞任に追い込まれ、親族経営という形態は破綻、父は行き場をなくした。
 こうなると後ろ盾をなくした父は弱かった。ほとんど実家の縁故で入社したような会社であったから、その縁故がなくなってしまえば会社側には父を雇い続けるメリットはない。せめて父がそれなりの実績をあげているか、それでなくともこれを機に仕事に励むようになれば良かったのだろうが、彼は変化した状況に耐えられなかった。最初の頃は酒を飲んで家に帰っては母をなじり、物にあたっていたのが次第にエスカレートしていく。就業時間中にもかかわらず酒を飲み、仕事をサボり、ついには上司を――それも父を心配して助言してくれた上司を殴って、結局、退職に追い込まれた。



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