. ルール 10 . .

「…太平洋か」
 仙石が呟くように言うと、「そうだな」と同じく呟いたような返事が返ってきた。
「もう五時だってのに、まだまだ真っ青なんだな。新幹線ン中から、夕日が見られるんじゃねえかって、ちょっと期待してたんだけどよ」
 なんとはなしに、ちらりと腕時計を見て仙石が言うと、
「ああ…盆は過ぎたって言っても、まだ日は長いからな。でも、ほんの少しだけど、波頭が黄色がかって見える。空や波はあんまりにも広大すぎて青一色に見えるけど、小さなもんの変化はよくわかるんだろうな」
 車窓…いや、その外に広がる海から目を離さないまま行が言った。言われてみればその通りだが、自分だったら何時間眺めていようがそんなこと気づきもしなかっただろう。これが天才の天才たるゆえんなんだろうな、と仙石は思う。そして、そのことがまるで自分のことのように誇らしく思えた。

ああ、きれいな空だな。

 ただの空が、ただの海が、いつもよりきれいに見えて、そんな感慨に仙石がふけっていると、

「…おれも」
 出し抜けにそんな言葉が聞こえた。きょとんとして振り返ると、行はほんの一瞬だけ仙石の方を見て、小さな、だが、はっきりとした口調で言った。

「おれも、一緒なんだと思う」

「…一緒?」
なにがなんだか分からない、仙石がそういう顔で反問すると、行は仙石から目をそらすようにもう一度海に目をやり、まるで独白のように語り出した。

Index
Back  Next
Novel