. ルール 12 . .

 数十秒ほどの静寂の後、行はまるで「やっと『言いたいこと』がまとまった」とでもいうようにゆっくりと口を開いた。
「明日の予定なんか立てたって、明日生きているかなんて自分でもわからない。そんなこと、みんな知ってるのに、それでも「明日は昼飯になに喰おう」とか、「仕事帰りに本屋に寄ろう」とか、そんな事考えて生きてる。それがおれには馬鹿馬鹿しくて仕方がなかった。みんな死の恐怖から目を逸らして、逃げているんだって、そう思ってた。
 だから、おれは逃げない、そう思ってた。思おうとしていた。本当は、多分、おれの方が逃げていたんだろうけど。――いや、もしかしたらただ単に、羨ましかったのかもしれないな」

 一言ひとこと、ゆっくりと、話しながら自分の内側を探ってそこにあるなにかを拾い上げていくような口調だった。照れ隠しなのか視線を海の方に向けたままの行の横顔は、けれども、穏やかに微笑んでいた。

「今は、おれには生き甲斐がある。前にあんたには話しただろ? 人が生きていくってのは、つまり、こういう事なんだろうな。
 生き甲斐ってのは、先を見る事なんだな。やりたいこと、したいこと、叶えたいこと、そういうことが沢山あって、それを実現しようと人間は生きてる。
 ――それが、醜く足掻かなければならないことを呼び込んでしまったりもするんだけれど、今はそういう人間のことも理解はできる。醜いとは思うけど、それも人間の一面なんだって、わかる」

 そこまで言うと、行は海に向かってではなく、仙石の方を向いてニコリと笑った。
「あんたのおかげだ」

 胸が熱くなるってのは、きっとこういうことなんだろう。我ながら変な顔になっているんだろうな、と思いながら、仙石は、
「おれは別になんにもしてねえよ」
 そう言って無理矢理笑った。油断すると涙が出そうだった。行はそんな仙石に向かって、ふるふると首を横に振った。いや、あんたのおかげなんだよ、その目は優しくそう言ってた。

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