. ルール 13 . .

「大きな変化ってのは、きっと緩やかにおきるんだろう。そうしなければ根付かない。
外側からいくら力を加えても、そんな与えられた変化は大きな時流に飲み込まれれば、結局元通りになっちまう。だから、おれは焦らない。おれが絵を描くことで、世界が変わるなんて、そんなことは考えてない。――でも、ほんの何人かにでも、もしかしたら、伝えられるかもしれないな。…丁度、おれがあんたに教えてもらったように」

 そう言って微笑む行の顔が、仙石には急にぼやけて見えてきた。ヤバイ、泣きそうだ、そう思ったが、胸の奥から膨れ上がった感情は、自分ではどうにもできなかった。

「…うん、うん、そうだな、おまえの絵には力があるよ。伝わるよ、きっと。伝えられるよ、きっと」
 馬鹿のように何度も何度も頷きながら、こぼれ落ちそうになる涙を必死でそこにとどめる。行はそんな仙石に向かってゆっくりと頷いた。
「そうできたらいいと、おれも思う。大きな海や、空でじゃあわからない変化も、小さな波頭でなら色の違いがわかるみたいに、世の中全部が変わらなくても、少なくとも、おれは変われたんだと思う」

 その声は、今まで生きてきた中で、こんなに優しい音は聞いたことがなかったんじゃないかと思うほど、優しく響いた。そして、行はもう一段、笑みを深くして言った。

「な、おれも一緒だろ?」

 その一言についに耐え切れなくなって、
「…ったく、なんだよ、おめえはよう、いい年したおっさんを泣かせるようなこと、言うんじゃねえよ」
 仙石は照れ隠しの悪態をつきながら、目蓋に溜まった涙を手の甲でゴシゴシと拭った。全く、ガキみたいにすねたかと思えば、急に殊勝なことを言い出しやがる。「これだからガキはよう」と仙石はさらに悪態をついて、それ以上は涙を見せまいと新幹線の天井を見上げた。

 無機質な白い天井の線はぼやけ、鼻の奥がツンと痛かった。

 そんな仙石を見た行は、微笑んだまま、
「いい年して泣く方が悪いんだろ?」
 言って、手にしていた雑誌を丸めて、ぽすん、と仙石の頭を小突いたが、それ以上は揶揄するようなことは言わなかった。それから、行もまた照れたように視線を車窓の外に移すと、
「ほら、見ろよ、あんたが見たがってた夕焼けの始まりだ」
 と顎をしゃくってみせた。ん? どらどら…ともう一度、赤くなった目をこすりながら、鼻を啜った仙石も車窓に目をやると、なるほど、先ほどまでは白い波頭だけがかすかに黄色く染まっていたのが、空全体が青から白、白から黄、黄色からオレンジ、赤とおだやかなグラデーションに変化していた。もうすぐ、空も海も雲も真っ赤に染まり、すべてが美しい夕焼け一色の世界になるのだろう。それは丁度、

「…そうだな、こうやって世ン中全部が変わっていくといいな」
 そう、仙石は呟いた。


 心の底から、そう思った。

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