. ルール 17 . .

「この辺、来たことあんのか?」
 手にしたハンカチで汗を拭いながら、相変わらず自分からはなにも語ろうとしない行の背中に問い掛ける。行は振り向きもせずに、「いや」とひどく短い返事を寄越した。一瞬きょとんとした仙石は、
「じゃあこんな田舎の道、なんでわかるんだ?」

 行は朝から一度も地図を開く様子も、分岐路で立ち止まる事もなかった。その様子からこの辺りの土地鑑があるものだとばかり思っていたのだが。
「覚えてきた」
 あっさりと言う行に、仙石はいつもながらの感嘆と苦味を噛み締める。その頭脳に、才能に感嘆し、そして、その才能を発揮させた日本の鬼子の存在を思い出し、そこに属していた頃の行とその胸中を想像してしまう苦味。

「すげえなあ」
 仙石は苦味の部分を飲み込んで、感嘆の方だけを口にした。

「そういう風に訓練されたんだ」
 得意ぶるわけでも謙遜するでもなく事実を事実として淡々と語る口調は、仕様書を読み上げられているような錯覚を抱かせた。いつも自分の事を外側から見て、まるで他人事のようにその「性能」を読み上げる。一度は飲み込んだ苦味がぶり返すのを感じながら、仙石は、それでも、と思う事にした。

 それでも、こいつは今、ダイス時代のことを過去形で話した。「訓練された」、と。

 ずっと「その頃」の影を引きずって、いや、魂の一部をその「過去」という足に踏まれて先に進めなくなっていた行が、過去を過去として認識しつつある。それはきっとこいつが一度は失った…いや、一度自分で殺した「自分」を取り戻しつつあるという事なのだろう。

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