. ルール 21 . .

「初めて来たんだろ?」
 仙石は煙草を取り出すと、ライターに火をつけながらそう尋ねた。返答は期待していなかったが、行は、「ああ」とだけだがそう答えた。「あんたは?」
「おれは…ニ回目だな」
 言いながら煙を吐き出す。「前はあいつのばあさんに案内してもらってな」

 すんません、克美のためにわざわざ…。

 菊政の祖母はそう言って何度も仙石に頭を下げた。部下を、孫を死なせてしまったことを謝罪するために来たはずなのに、逆に謝られる格好になって、仙石は恐縮するよりいたたまれない気がした。まだなじられる方が良かった。憎んでくれたなら、それを辛いと思える分だけ救いがあっただろうに。

 仙石を墓の前まで案内すると、「よかったな、克美、伍長さんが来てくださったよ」と言って墓石を愛しげに撫でさすった。しかし、それで感極まってしまったのか、不意に仙石から顔をそむけた老母は、お先に失礼します、と震える声で告げて、丸くなってしまった背を更に丸くして、ひとり、ゆっくりと坂を下っていった。その着物の色がついさっきよりも何故かくすんで見えて、その背中が今にも消え入ってしまいそうで、そう感じてしまうことすらもひどく辛く、仙石はその背に声をかけられず、ただその場で遠ざかる老婆の背に向かって頭を下げつづけた。

 深く紫煙を肺に吸い込む。いつもより苦い気がした。息苦しさを煙草のせいだと言い聞かせて、おれも歳をとったもんだな、と仙石は思う。痛みにも鈍感になり、すべてのことに対して不感症でいられる。歳をとるということはそういうものなのかもしれない。だとしたら、この苦さもいつかは薄らいでしまうのか。

 かたわらの少年と言っても差し支えないような面差しの青年も、いつかその痛みを忘れていくのか。

 だとしたら、いい。それなら歳をとって鈍感になってしまうのもいいのかもしれない。
けれど。

 けれど、行がこの痛みを忘れることなど、多分、決してないのだ。自分が、不感症になっていく己を恥じ、恐れているように。

「…いい、景色だな」
 吐き出した紫煙とともに独白のような呟きが漏れた。行はどこかひどく痛ましい表情で、「ああ」とだけ答えた。
「墓ってのはさ、こういう高台とかにあるってのがおきまりだろ? なんでか知ってるか?」
「災害に見舞われたとき…特にこんな町なら津波に襲われたとき、高台は被害を受けにくいからだろう? 日本人には先祖を神格化して崇める慣わしがあるから、非常事態に遭遇したときにその元へ行って庇護を乞う」
 行はそう淡々と答えたが、仙石は、「うーん、及第点、だな」と言って少しだけ笑った。

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