. ルール 25 . .

 いつもの行の絵は背景までが精緻に描き込まれており、そのタッチは力強く、どこか猛々しさが感じられるほどだった。

 だが、この絵は常と違い人物のみが描かれ、背景はぼんやりと色が置かれているだけだ。全体的に暖色でまとめられたその絵は、まるで印象派のそれのようだったが、同じ「絵を描く」仙石の目から見れば細部にまで手が入っているのがよくわかる。

「…これ、菊政だな?」
 聞くまでもないことだ、そう思ったが、仙石はあいかわらず彼岸に目を向けつづけているような行にそう問い掛けた。
「ああ」

「きっと、こいつ喜んでるよ」
 仙石はそう言って、墓石の横を、まるで人間の肩を叩くようにかるく叩いた。自然、頬が緩みかけたが、行は、

「死者は何もできない。死者に感情なんかないって言っただろ」

 そう言って思わずというように目を伏せた。自分で言った言葉が跳ね返り、そいつに切りつけられた、そんな顔だった。「…たとえ、そういうことが本当にあるんだとしても、遅いって言われるだけかもしれない」
 付け加えられた小さな声は、消え入りそうだった。

「なにが?」
 わからない。遅いってのは、どういうことだ?

「約束したんだ、<いそかぜ>で。似顔絵、描くって。…本当はあいつが生きてる間に、目の前で描いてやらなきゃいけなかったんだと思う。――あの約束はそういう意味だったんだ、…多分」
 行にしては珍しく、断片的な物言いは、込み上げる感情を律するのにその神経の多くが割かれているからだろう。キャンバスを持つ手は、その甲に骨が浮き出るほどに握りしめられていた。

 いじっぱり。酷薄。そう言ってもいいだろう。だが無意識のうちに必死で無表情を装おうとしているらしい行に対して仙石はそう言わなかったし、思いもしなかった。ただ――いたましいと感じるだけだ。

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