. ルール 27 . .

 わからない、そういう顔をしていたのだと思う。行は仙石の顔を見ないままその無言の問いに答えた。

「おれを縛っていたものは、自分で決めた生き方と任務だけだった。『逃げない』って決めたから、そうしてきた。任務だから従ってきた。
 任務は…任務は簡単だ。与えられたらこなせばいい。もういい、やめろと言われるまで続けていればいい。失敗するまで自分からやめなければ、諦めたことにはならない。…逃げた事にも、な。
 それは決められたルールだ。だからそれに従う。それでいいと思っていた。任務も、法律も、モラル…例えば電車の中で携帯の音を消しておくとか、そういうことも全部ルールだから従う。
約束もルールのひとつだ。してしまったら、守らなければならない。そうする以外、おれは、どうしていいのかわからない」

 消え入りそうな声で呟き、またかすかに首を振る。どうしようもなく、痛々しい。

「…だから、おれは菊政に対してずい分酷いことをしてるんだと思う。自分がどうしていいのか分からないから、その不安を消し去るためだけに絵を描いた。それがあいつの気持ちを裏切ることになるかもしれないってわかっていながら」
 ぎゅっと、また握られた手に関節が浮かび上がるのが見えた。

 どうしてこんなにも、こいつはすべてに対して誠実であろうとするのか。もっと楽な生き方だって選べるだろうに。狭量なほどに真面目で、どうしようもなく律儀で義理堅い。自分で自分の居場所を居心地悪く狭めてしまう。

 けれど、それはけっして欠点というだけではない。それを愚かしいと哄うということはできない。その誠実さは本質的には人間の美徳というものだと仙石は思う。だから、
「おまえ、わかってねえなあ」
 呆れた、そういう口調にした。そう言って、眉間にしわを寄せ、え? と言うように顔を上げた行に向かって、ひとつ溜息をついてみせさえした。

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