. ルール 29 . .

 ふと仙石は、そうですよ、と少しだけ困ったような顔で笑う菊政に背を押されたような気がした。なんとかしてくださいよ、先任伍長、このまんまじゃ先輩、生きにくくってしょうがない。

 そうだ、そうだな、菊政。おまえはこうやって墓の中にいても、その声はおれに届くよ。

 もしかしたら、それは幻なのかもしれない。自分にとって都合のいい解釈、現実はもっと味気ない、空っぽなものかもしれない。

 だが、それでも。

 それでもいいんだよな、そういうことなんだよな。

 自信は確信に変わっていた。相変わらずその源は未明なままだったが、背を押してくれた菊政の声が、自分は間違ってないと勇気づけてくれる。

「約束は、自分が何かを失うことを恐れてるんじゃない」

 ひとことひとこと、ゆっくりと、自分でその意味を、輪郭を確かめるようにつむいでいく。「自分じゃない。相手が自分に対して失望する――つまり、『相手が何かを失う』ってことを恐れてるんだ」

「菊政はもう死んでいるんだ。何も失うことなんかない。これ以上失うことなんかできない」

 返ってきた行の声はまるで投げ捨てられたような声だった。

 また自分の言った言葉に切りつけられている。心が血を流しながら立ち往生している。本当は悲鳴を上げたいほど苦しいのに、苦しいと言葉に出すことすら、自分にはその資格がないと思っている。

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