. ルール 30 . .

「…確かにな。だが、それでもおまえは約束を守ろうとした。なんでかわかるか?」

 おれも同じだ。自分にとって家も同じの艦を奪われ、家族のような部下を死なせたこのおれも同じだ。苦しいなんて、辛いなんて、もうそんな風に感じることもできない奴らがいるのに、そんなこと軽々しく口にできない。
残された人間のなかにも自分よりも苦しんでいる人がいる、自分より悲しんでいる人も。

 菊政の祖母は、自分に家を買ってやるんだと言ってくれた孫を喪ったその悲しみを、怒りを、仙石にぶつける事はなかった。

 罵ってくれれば楽だった、それは逃げに違いない。

 けれど、それだからこそ、
「それがおれにとってルールだから」

 行から返ってきたその答えは間違っている。そんなものじゃない。

「おまえはそう思っているのかもしれん。もしかしたらおまえの言う通りなのかもしれない。でも、おれは…おれは違うと思う」

 墓がみな、海にむかって建てられているのは何故だ?

「さっき、電車の中で携帯電話を切っておくのもルールだって言ってたな。じゃあ、その車両に他に誰も乗っていなかったとしたら?」

 そもそも、携帯電話を切ることがルールにされたその訳は?

「まわりに誰もいないなら、電話をしようがバカでかい着信音が鳴ろうが問題ないよな?」

 人手が足りないであろうこの寒村においてさえ、墓地の周りの草が刈られているのはなぜだ?

「それと同じで、もしその約束が単なる決め事のルールなら、おまえはもうそれを守る必要なんてない筈だ。誰もいない電車と同じように、約束の相手はもういない」

 決まりきった、おしきせのルールじゃない。だから。

「――いいか、行、それはな、ルールじゃなくて優しさなんだよ。死んでる、もういないって分かってても、その魂みたいなもんに嘘をつきたくないって、何かを失わせるのは嫌だって、そういうことなんだよ」

 いるんだかいないんだか、判然としないもの。幽霊なんて信じてない。でも、そんなあやふやなものに対してさえ、筋を通そうとするのは、義理堅さや律儀さだけが理由ではない。いや、そもそも、その律儀さや義理堅さは、人が人を思いやる、その優しさに根付いているものだ。

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