. ルール 31 . .

「おれは――おれは優しくなんかない!」
 行が全身を声にして叫んだ。悲鳴に聞こえた。苦しいと、初めてあげられた悲鳴に。

 死者に対して負い目を感じるからこそ、ここへやってきた。
 それは優しさというものではないのか?
 優しいからこそ、苦しんでいるのではないのか?

「それなら…!」

 行の絶叫は、なおも続いた。声自体は大きなものではない。だが、血を吐くような、体のどこかを自ら抉りながら、全力で自己否定を叫ぶその声は、まぎれもなく絶叫だった。

 いや、もしかしたら、それは行の中の「感情」があげた産声なのかもしれない。

「おれが優しい人間だというなら、なぜみすみす菊政を目の前で殺された? 兵長だって死なせてしまった。他にも…写真とスコープ越しにしか見たことのない、話しをしたこともない人間を、何の恨みもないのに任務だってだけで、おれは…おれは一体何人殺した!? 優しいなら、そんなことできない筈だろ!?」

 人は涙を流さずに泣くことがある。わななく唇が、握りしめられた拳が、自己否定を叫ぶその全身で、行は泣いているのだ。

 本当は辛い、苦しい。誰かに、「おまえは悪くない」、そう言って欲しい。でも、それは望んではいけない望み、禁忌だ。赦されてはいけない、救われるなんてことはありえないし、あってはいけない。こんなにも血を吸った手のひらで、幸せになんてなれっこない。たとえ未来に甲斐を見出しても、それは死んでいった人間に対してのたむけ――それも自己満足の――たむけ以外の意味合いはあってはいけない。

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