. ルール 35 . .

 本当は行のせいなんかじゃない。けれどこいつは、ひどく律儀で、不器用なまでに優しい。

 だからこそ、こんなにも苦しい。

「この絵はさ、ルールってだけじゃ描けない絵なんだよ。とんでもねえ額の契約金を積まれたって、絶対に描けねえよ」

 ルールじゃない。仙石の言葉に行の閉じこもっていた殻に、ぴしり、いみりが入った。その目を上げて、仙石と、その後ろの菊政の墓――自分を慕ってくれた後輩を見る。

「だからさ、そんなに自分ばっかり責めんなよ。そんなことに優しさってのを無駄遣いすんな。もっとちゃんと、ちゃんとそいつを使いこなしてやれよ。菊政だって、おまえのそういうところ見抜いて、そんで、おまえになついてたんだからよ」

 わかったようなこと言って、無責任に相槌を打つ他の人たちよりも、ずっと…おれにはやさしい人に見えた。

 菊政はそう言った。自分が気がつくよりずっと早く、菊政は知っていた、見抜いていた。

「今まずおまえがやらなきゃって思うことを、やりたいって思うことをしろよ。自分を痛めつけるのに使ってた力を、それを外側に向けてやれば、おまえの絵には人を変えられる力がある。そりゃ、すぐにわかる変化じゃないかもしれん。でもな、ほんの少しの変化でも――たとえ波頭の色がほんの少し変わったってだけでも、その後には夕焼けが押し寄せてくるんだろ? そんな呼び水みたいなもんにだってなれる」

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