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ルール 5 . | . |
| 広島。 反芻するように小声で呟いて、仙石もそうめんを啜り込むことを再開した。 しかし、その味は一向にわからなかった。 なぜなら、行の言った「広島」という言葉が、頭の中でエコーを繰り返し、壁に当たってこだまのように反射するたび、そいつが心のどこか無防備なところに入り込み、ひどく胸が痛ませたからだ。 広島。 夏の広島。 普通の日本人にとってそこは、原爆という化け物に蹂躙された過去そのもの。それを象徴する世界大戦の忘れ得ぬ巨大モニュメントである。だが、終戦から半世紀以上たった今、その痛みを切実に感じている者は少ない。どんな激しい痛みであれ、その強烈な衝撃は、当事者以外にそのままの痛烈さで伝わっていくことなどないからだ。 しかし、この日本には、世界大戦以外の戦争を知っている人間がいる。それもまた、夏の広島に象徴されるものだった。 <いそかぜ>…。 世間には知られることもなく、まだその傷跡が生々しい者、更にはジクジクと血を流しつづける傷を今も胸に抱える者が、その痛みをひっそりと孤独な胸の裡に抱きつづけている。――多分、死ぬまで。 更に、仙石にはその痛みとは別の痛みもあった。広島という土地に存在した、そして、それが砂上の楼閣であったことを、「あの夏」に知ってしまった、「家族」という言葉にまつわる痛みが。 行が仙石のその痛みまでも理由に、広島という言葉を口にするのを躊躇っていたのかどうかは定かでない。が、「広島」が行にとっても今も血を流し通ける傷になっているであろうことくらいは想像に難くなかった。 |
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