. ルール 7 . .

 今、広島から遠く離れた房総半島の片隅にあって、それでも死んだ者の名を口にする度、行の目には微かな翳りが浮かぶ。しかも、あの二人の名は、明るい話題に引き合いにされる事が多かったから、その差異はより強調される結果になってしまい、翳りはより色濃く見えた。

 そんな行を広島になど、行かせてもいいものなんだろうか? と仙石は自問した。折りしも、あの事件があったのと同じ季節に…。

 ダイスでの訓練の賜物なのか、生まれつきの資質なのか、行の精神はいっそ馬鹿馬鹿しいほどに強靭で、たとえ発狂してもおかしくないような状況にあっても、その精神力で狂気の淵に落ちようとする己さえも屈服させる。
 だから、広島と言う土地にまつわる記憶がどんなにその精神を苛んだとしても、行の精神が病に冒されることはないだろう。だが、逆に、それは狂うことすらできない痛みに一生耐えつづけなくてはならないことを意味している。
 しかも、行は少なくともあの二人に死に対して自責の念を抱いている。死んだ人間に弁明や謝罪することは出来ず、赦しは決して得られない以上、彼は自分の精神に対する加虐に、贖罪を求めるに違いない。

 …少なくとも、おれなら、そうなるだろうな、と仙石はまるで火傷でもしたかのようにチリチリ痛む胸に呟いた。現に今も仙石には、「あの時、おれがもっと上手く立ち回っていれば、少なくともあの二人は死なせずに済んだんじゃないのか?」と転々反転して寝付けない夜がままある。

 仙石はなんだか、いたたまれなくなって顔を上げ行の表情を窺おうとしたが、その行は相変わらずの鉄面皮に無表情を貼り付けて、内心はともかく、表面上はなんの動揺も見当たらず、ただ淡々と食事を口に運んでいる。
しかし、ふと仙石はいつもより行の睫毛が長く見えるということに気がついた。

 それは、その目が伏せられているということだ。

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