. ルール 8 . .

 行き先をすぐに言おうとしなかったのは、おれのこと心配したのか?

 …でも、おまえだって、辛いんじゃないのか?

 そう胸の内に呟いて、その目を覗きこむことはできずに視線をそらせば、今度は行の右上腕が不自然に張っていることに気がつく。何も力を入れなければならないことなどしていないのに、腕から肩、肩から首にかけて、薄手とはいえ着ているTシャツの上からでもわかるほど筋肉が緊張しているのだ。何故…? 一瞬自問したその答えは、すぐさま思い当たった。

 ――箸を握る手に力を込めてしまい、必死で感情を押し留めている事を仙石に悟られないように。

 まだ子供のくせに、なんでそんなにいろんなことに耐えてばかりいる? と、そのあまりの痛々しさに思わず感じたことをそのまま言ってしまいそうだったが、そうすることでしか救われない事由というのもまた理解できてしまい、仙石の声はのどの奥で立ち往生していた。

「…広島、広島ねえ…」
 わざと気のないような口調で、拍子をとるようにしながら呟く。少しでもふざけて見せなければ、感情を残らず吐露してしまいそうだった。仙石は置き去りになってしまっていた箸を取ると、目を細め、わざと大儀そうに麺をすくい上げた。

 行きたいか、行きたくないか、と問われれば、多分、行きたくない土地だ。とりあえず、今はまだ。

 けれど、

「まー、おまえ広島の地理に疎いだろうから一人で行かせて道に迷われてもアレだし、今日帰れと言われてもそれはそれで帰り支度せにゃならんということは変わらねぇし、新幹線ン中はここと違ってクーラーも効いてるだろうし、おれもついて行ってやろう」
 それだけ言うと、ズルズル、麺を啜る。

 正直言って、心配だった。

「…偉そうに」
 片方の眉だけ跳ね上げた行が呟くように言った。けれどその目はゆらゆらと今も泣き出しそうに揺れていて、やっぱり一人で行かせなくて良かったな、と思う。自分には息子はないが、反抗期の息子というのはきっとこんなもんなんだろう。強がりで、意地っ張りで、優しくされると素直になれない。まるで昔の自分を見ているようで、
「まだまだおまえなんざ、おれから見たら子供なんだからよ」
 ふん、と鼻から息を吐きながら仙石は言って、再びそうめんをすすり込む。なぜか行の顔を見ることは、照れくさいような気がしてできなかった。

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